傾聴をしていると連想ゲームのように話が脱線していってしまうことがあります。
そんな時、どのように対処していったら良いでしょうか?
いくつかのケースに分けて解説します。
目 次
1.脱線して良い場合
2.脱線しては困る場合
1.脱線して良い場合
傾聴の目的によっては脱線して良い場合があります。聞き手が制御するよりも流れに任せた方が良い場合にはあえて脱線を続けることもあります。
1)聴くこと(受け止めること)自体が大事な場合
傾聴の目的の一つに受容(受け止める)があります。話し手の状態や傾聴の場面によっては話の内容を理解することよりも「あなたの話を100%受け止めました!つまり、あなたのことを100%受け止めました」とお互いに実感できることが大事です。
その場合には脱線を考慮する必要はありません。
今、話していることが話し手が伝えたいことなのです。興奮している人や認知症の人、精神疾患の人などは感情に任せて、話をすることもよくあります。向き合って受け止めること自体に意味がある場合には話の流れを気にせずに聴ききることが大事です。逆に話の流れにこだわると話の腰を折ってしまいます。
2)話し手は情報ではなく、気持ちを伝えたい
聞き手はつい話し手が発している情報に耳が向いてしまいます。しかし、人は情報に乗せて気持ちを伝えようとしています。
「雨に降られて大変だった」というセリフは雨という情報を伝えたいというよりは大変だったという気持ちを共有してほしい場合が多いのです。もしそうだとしたら、「忘れ物して大変だった」「パワハラされて大変だった」「雨に降られて大変だった」どれも情報的には全く違う話のようですが、「大変だった」という感情は似ています。
「気持ちを聴くんだ」と聞き手が意識すると実は「脱線」ではなかった。ということはよくあります。感情的には筋が通っているのです。
3)脱線をカウンセリングの喩えに使う
カウンセリングにおいて、最も重要なのは悩んでいる人の話を傾聴して、気持ちを受け止め、状況を理解し、共感することかもしれません。しかし、次のステップで「変化」をすることをクライアントさんが望んだ場合、例え話が非常に強力な武器になります。
脱線した話はクライアントさんからでてきているわけですから、それを引用して、問題を解決できれば一石二鳥です。ワークをこれからに控えた傾聴の場合には脱線はリソース探しとして有効な場合もあります。
(不登校の高校生の実例)
アルバイトをしようと思うけれど怖くて挑戦できない高校生がいました。
話を聞いてみると未知の領域である店舗で知らない人たちと知らない作業をするのは怖いということでした。「確かにそうだね」と話をしている中で話が脱線し、ボクシングの話になりました。
学校の授業やアルバイトの話ばかりをしていたのでその生徒が趣味でボクシングをやっていたことを初めて知りました。ボクシングの魅力、テクニックなどをその流れで傾聴するうちに彼はデビュー戦の話をしてくれました。「あのリングにあがったら、自分の力しか頼れない。どうなるかわからない。とても怖い!でもみんなが応援してくれるし、自分を信じてリングに上がりました」という。これは彼がボクシングで示した、「アルバイトの始め方」そのものです。
「みんなが応援しているから、自分を信じてやってみたら良い」と
彼自身がボクシングで言った言葉です。ボクシングの喩えでアルバイトへの恐怖心を彼は払拭しました。カウンセリング後、彼は「ボクシングって人生の教科書なんですね!」と感想を残しました。脱線こそリソースの宝庫なのです。
本人が実体験をしているボクシングの例えだからこそ、このカウンセリングが成立しています。他の子にはこの例えは通じません。野球だったり、ポケモンGOだったり、臨機応変に本人の中からリソースを引き出して道を示すのがカウンセラーです。
そういう意味で脱線は非常に重要なのです。
2.脱線しては困る場合
時間の制約や堂々巡り、様々な理由で脱線するわけにはいかないこともあります。その場合には以下のような方法を使います。
1)枠組み(フレーミング)を明確にする
傾聴の序盤で「今日は時間に限りがあります。一つのテーマをじっくり伺いたいので、今日一番話したい話題を決めましょう」と言って、今日話をするテーマを決めます。そのテーマの範囲内で傾聴を進めていくことで脱線を予防します。
それでも脱線する人は脱線しますので、「あ、脱線したな」と思ったら「その話もとても大事ですね。中途半端になっちゃうので、それは次回、時間をしっかりとって聞きたいです。今日は先ほどのテーマをさらに聞かせてください」と話を戻します。ポイントは「脱線」と否定的に反応するのでもなく、「むしろ重要なので今日は中途半端に聞くわけにはいかない」というスタンスで話を遮ることです。
2)メインの話題を大きめの文字でメモに残す
メモが便利なのは「この話ですが」とメモの文字を指差せば、そのテーマに戻りやすいということです。メインのテーマを目立つところに大きめの文字でメモし、脱線したものは余談として、端の方に小さく書きます。そして、脱線したら、メインテーマのメモのどこかを指差し、「・・・なるほど、ところでこの時にはどんな気持ちだったんですか?」と話を戻します。
3)「脱線していますよ」と示す
一部の精神疾患や発達障害の人の中には全く気づかない間に脱線してしまう人もいます。
そういう人には「脱線したら伝えますね!」と「脱線」自体を話題にしておいたり、脱線したら、「ぴぴぴぴぴぃ〜」とスポーツで反則をした時のようなリアクションをして、楽しい雰囲気で「脱線したから戻りましょう」と示唆します。
症状として脱線してしまう人はある程度自分のそういう傾向を知っていますので、指摘されてもこちらが思うほど落ち込みません。ただ、「何やってんですか!脱線しましたよ!」と言う必要はないので、「ぴぴぴぴ」のようなユーモアで包んで伝えてあげてください!
4)ひどい場合には一問一答に切り替える
自由な傾聴の良さは失われてしまいますが、脱線がひどく、目的が達成できそうにない場合にはやむなく一問一答に切り替えます。
「私(聞き手)が質問をしますので、30秒で答えてください。」
というルールにして、簡潔に答えてもらいます。
この場合も3と同様、話し手が落ち込まないようにゲームのような雰囲気にして、配慮します。
5)若者にはワークシートを
若い人は口頭で話をするのが苦手な人が増えています。
その場合、スマホやワークシートを通して、伝えたいことをじっくりと考えて、話の骨組みを作ってもらってから傾聴した方がうまくいきます。
若い人に対して傾聴する場合には数日前からLINEのやりとりを緩やかに始め、文字ベースで少し概要を固めておきます。すると、対面した時に「あのメッセージだけどさ」と話の流れが作りやすくなります。LINEの画面を見ながら吹き出しを指差して解説してもらうことも効果的です。
<優しく道を整える傾聴>
今回、「話の脱線」をご紹介しましたが、傾聴は聞き手の主観との戦いでもあります。話の中身を作るのは話し手です。聞き手は話し手が伝えたい気持ちに目を向け、それを追いかけ、受け止めます。「脱線」という概念の前提には「これは必要」「これは関係ない」と聞き手が話し手の脚本に駄目出しするかのようなニュアンスがあります。
傾聴は大切な人の理解しにくい、表現しにくい心の叫びを聴くことです。舗装道路を強引に作って歩かせるのではなく、草原をともにおおらかに散歩するような傾聴を心がけたいものですね。
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