傾聴の基本的なスキルの中に「うなずき」があります。たかが「うなずき」でも非常に詳細なバリエーションがあります。

目 次
1.そもそも「うなずき」の影響は?
2.傾聴スキルとしてのバリエーション
3.教材は日常生活に


1.そもそも「うなずき」の影響は?

一般的に「うなずき」は人の話を先に促す効果があります。傾聴をより円滑に進めるには「うなずき」が大事というのもわかります。しかし、そんなに単純なものでしょうか?

1)無意識的に受け取られた場合

「うなずき」が傾聴スキルとして有効なのは「うなずき」が相手に無意識的にキャッチされた場合です。(助けを求めていて、うなずきで落ち着く場合など例外はあります)無意識的にあいての「うなずき」をキャッチすると話し手は無意識的に気持ちに余裕ができます。承認されたという小さい喜びがあったり、この話を続けてくださいというニュアンスになったります。これが傾聴の際に「うなずき」に期待される効果です。

2)意識的に受け取られた場合

相手が特に臨床心理士や産業カウンセラーの場合、「うなずき」を意識的にキャッチします。職業柄、「うなずき」を気にする習慣があるからです。また、メンタル不全者の多くは自分の身を守るために警戒心などから相手をよく見ている人がいます。そういう人も「ああ、今うなずいたな」と意識的にキャッチしています。その場合の「うなずき」には受け手の評価が入ります。「これはうなづきの頻度が多すぎるな」とか「今のうなずきはテクニック的だな」と感じたら傾聴の際に求められる「うなずき」の効果は発揮されません。

3)自然な形になるまで

初心者の手品師は技を繰り出す瞬間に一瞬緊張するので、聴衆を緊張させ、ネタがばれてしまいます。一方で上級者は技を繰り出す瞬間が自然で緊張感がないので、聴衆も緊張して技の発動をチェックすることができません。傾聴する側が「うなずきの頻度」「うなずきのタイミング」「うなずきの効果」などを考えているうちはその瞬間にわざとらしさが伝わり、多くの場合、相手に意識的に受け取られてしまいます。「ああ、わざとうなずいているな」とか「技術としてうなずいているな」と思われた時点でラポールが強化されるどころか、冷めてしまいます。練習中は不自然になるのはやむを得ませんが、傾聴の本番では意識しなくても適切なうなずきができるようにしたいものです。

4)話の流れを変える

「うなずき」とは、非常に些細であってもリアクションです。「あなたの話のここが面白いですよ!」「そこに共感しますよ!」と言ったようなメッセージを含んでいます。なので、例えば、「今年の夏休みはいろいろなところに出かけました。8月の初めには沖縄に海水浴に行って、お盆休みにはおばあちゃんの住む軽井沢に行きました」という話を傾聴している時に「沖縄の海水浴」のタイミングでうなづけば、続きの話は「それで、沖縄では・・・」となる可能性が高いですし、「軽井沢」でうなずけば、続きの話は「それで、おばあちゃんと・・・」となる可能性が高いのです。「うなずき」はただの反応ではなく、話の流れを作ったり、腰を折ったりするツールであることを意識するとコミュニケーションの質が変わります。

5)リズムを作るうなずき

傾聴の序盤はお互いの雰囲気が固くなりがちです。話し手が10の力で話をしたら、11で返し、11に合わせてきたら12にするようにリズムを作ることがうなずきを通してできます。話し手に違和感を感じられない程度に「うんうんうん」とリズミカルにうなずくことが話し手の無意識な体の揺れや言葉のリズムに反映されてきます。

徐々にアップテンポになるようにうなずきを使うことができる人は傾聴の序盤から流れるように話をしてもらうことができます。限られた時間で必要な感情と時として情報を引き出すためにぜひ工夫してみてください。

 


2.傾聴スキルとしてのバリエーション

日常会話ではなく、傾聴のスキルとして「うなずき」を考えた時には様々なバリエーションがあります。扇風機の「弱」「中」「強」のように使い分けられると傾聴の幅も広がります。

1)最小単位の「うなずき」

傾聴の時にもし目があっていれば、瞬きの大きさや目を少し動かすだけでも十分に「うなずき」になります。実際に私たちの普段の会話を観察しているとわかりますが、大げさな人を除けば、それほど大きく首を振ってうなずいているわけではありません。「聞いていますよ!続けてください」というメッセージが伝われば良いくらいの微妙な動きでも十分に「うなずき」になっています。

小さい「うなずき」のメリット
「うなずき」が小さいことのメリットはなんだと思いますか?それは上記に書いた「無意識的に受け取られる」確率を上げることになります。おでこが10cmも動くような「うなずき」ではわざとらしく、相手も意識してしまいがちですが、1mm程度の動きでうなづいても相手は意識的になることができません。「まさかそんな小さい「うなずき」をわざとしないよね」というくらい小さい「うなずき」は傾聴の時に大きな武器になります。まさに「傾聴のスキル」と言えます。

2)中ぐらいの「うなずき」

一般的に「うなずき」と呼ばれるくらいのおでこが3cm程度動くような「うなずき」は相手も意識するかもしれませんが、相手の話が盛り上がった時や感情的になった時などには非常に有効です。重要なのは話し手が「他の話に比べて、ここは重要!」「みどころ!」「聞いて欲しい!」と力を込めた瞬間に「うなずき」の大きさが変わることです。ふだんの「うなずき」を1)にしておいて、ここぞという時に中くらいの「うなずき」を入れるのがさらなるスキルです。

3)大きな「うなずき」

これは大味なので滅多にやりません。普段からやっていると嘘くさくなってしまいますので、何回も傾聴を重ねる中で、感動的な場面があったり、「よしよし、よくやったね!」と心の底から共感できた時に使います。この「うなずき」は共感した流れで自然に出てしまうことがほとんどなのでむしろスキルとして使わないほうが、効果的です。

 


3.教材は日常生活に

「うなずき」の種類は何パターンあるでしょうか?

上記の3つを使い分けられるだけでも傾聴スキルはだいぶ上がりますが、それは傾聴ボランティアや心理カウンセラーという世界観だから言えることです。もし、みなさんが役者さんだったらどうでしょうか?3種類しかできなければ、演技になりません。

1)勇気を振り絞って旅立つ仲間に

映画などで大事な家族や仲間が死地に赴く際に言葉もなく、うなづくことがあります。「かける言葉も思いつかないけれど、ありがとう!いってらっしゃい!」というような「うなずき」

傾聴をしていて、話し手がこれからトラウマと立ち向かうとか、勇気を振り絞って社会復帰しようというような局面ではこの「うなずき」がぴったりかもしれません。

2)聞き分けが良い子供がお母さんに

「ママ!わかったよ!」というような「うなずき」もありますね。一般に傾聴をする側がホスト、傾聴をされる側がゲストという関係性で傾聴をすることが多いですが、話し手が聞き手に対して思いやりの言葉を発したり、ホスト、ゲストの関係が瞬間的に変わる時があります。その時に聞き手が「ママ!わかったよ!」的な「うなずき」をすることで話し手がシャキッとすることが期待できます。

3)おばあちゃんの

昔話に出てくる優しいおばあちゃんのような「うなずき」もあります。「うんうん。そうかい」と穏やかに感情的ではなく、包み込むような「うなずき」これによって、満たされたような気持ちになったり、話し方がゆっくりになる人もいます。

これらの「うなずき」は無数にあります。相手の話を聞いていないような「はいはいはいはい」というような「うなずき」は関係性を壊しますが、関係性を壊したい時や傾聴のリズムを変えたい時にはその「うなずき」が役に立つことすらあります。

職人さんの道具箱にさまざまな(素人が見ると全部同じに見えるような)道具がはいっていますが、「うなずき」という道具が何種類あるかは、傾聴をする時にどれだけ細部にこだわっているかの一つの指標でもあります。

 


4.傾聴練習会 奥義とも言える微細なうなずき

11月24日(金)オンラインにて開催されました。
活動報告)傾聴練習会「うなずき」

相手が自覚できないほどの微細な動きでうなずくこと。これは上手なコミュニケーターは実際に使っている技術ですが、練習会をして感じたのは自分の微細な動きに気づいていない人が多いこと。自分の目の動き、口角の動き、顔の角度などに気持ちを向けていると知らず知らずのうちに目の大きさを変えたり、口角を上げたり、顔を前後に揺らしたりして反応しています。ただ、その反応があまりに小さいため、相手が気づかないだけでなく、自覚することも難しいようです。

「奥義」と銘打っただけあり、実際に使いこなせると相手が全く意識できないのでかなり高度な使い方までできますが、まず自分で自覚できないという問題があることはこの記事を書くときには想定していませんでした。確かに動画や鏡をよく見て練習しているプロの講師やカウンセラーならまだしも、傾聴を学び始めの人に微細な顔の動きなどを意識するというのは高度なのかもしれません。ただ、この小さな小さな「うなずき」をマスターすることができれば、「あいづち」はかなりインパクトのあるアクションとなり、「おうむ返し」などは強力な武器になります。

オンラインでの練習に慣れていない人はまずリアルと画面との違いに戸惑っていたようでした。今後、スカイプ、LINE、ZOOMなどさまざまなビデオ会議システムが普及し、VRなどがさらに一般化されることを考えるとオンライン画面でのやり取りになれることは欠かせません。特に慣れていない人はカメラと画面の位置の相違でおかしな写り方をしてしまいます。オンライン画面で傾聴してもらえているような顔をみせるのはライブとはやや違うことを自覚する必要があることを改めて感じました。

 


<細部にこそ思いやりが宿る>

神は細部に宿ると言います。傾聴における細部とはどんなことを指すでしょうか?普段、意識してコントロールしていない言葉遣いやボリューム、瞬き、身振りなどに「あなたが大事ですよ」という思いを込めて、神を宿らせたら、素晴らしい傾聴になります。

微細なうなづきが重要になる「傾聴」の考え方は普通の「傾聴」と何が違うでしょうか?