「言葉にできるものと出来ないもの」どちらが多いでしょうか?
ビジネスや情報処理、学問ばかりをしているとともすると全てが言葉で表現でいると錯覚してしまいます。しかし、一旦立ち止まって考えてみるとそうでもありません。言語化するのはとても難しいことなのです。傾聴はそういう場面で強力な力を発揮します。
1.言語化実験
次のことを言葉で表現してみてください。
(実験 1)
フリーフォールやジェッチコースター、飛行機などで急にふっと落ちた瞬間に腰のあたりに感じる感覚を表現してください。(実験 2)
烏龍茶と緑茶の味の違いを言葉で説明してください。(実験 3)
カレーライスの作り方を言葉だけで説明してください。ジャガイモの皮の剥き方も含めて。(実験 4)
あなたがここまで生きてくる過程で関係があった人たちのことをどんなふうに思いますか?(実験 5)
仏教的な死とキリスト教的な死の違いについて解説してください。(実験 6)
明治維新とは私たちの人生、文化にとってどんな意味があったか説明してください。
5分以内にパパッと明確な答えが得られたでしょうか?質問の答えを回避するような回答や納得感のあまりない回答はNGだとすると、1時間かけても難しい問いがあったのではないかと思います。
2.言語化しにくいテーマ
私たちが言葉で表すと時に「難しいな」と感じたり時間を要するテーマがあります。以下に挙げるような内容を答えようと思った時にはパパッと答えられないことがあります。
1)身体感覚に関連するもの
毎日の肩こりの様子を言語化して、昨日と今日の違いがわかるように説明し続けるのは難しいものです。「重い」とか「つらい」のように表現ができたとしても1ヶ月の推移がわかるように言語化していくには相当な表現力が必要です。また、「重い」と一言で言っても人によって、タイミングによって基準が変わってしまいます。
「身体が重いんです!」
「俺も大抵いつも重いよ!」
これは果たして、同じ重さを語っているでしょうか?これは伝わっていないと言わざるを得ません。
2)積み重ねたもの
明治維新は坂本龍馬始め色々な人が動いて「大政奉還」して、江戸幕府の体勢が崩れて、新しい時代が来たと簡単には言えるかもしれません。しかし、本当の意味で明治維新を説明しようと思ったら、少なくとも関ヶ原の合戦まで話を戻して、高知の長宗我部氏の上に山内家が入って厳しい身分制度ができたことや吉田松陰や勝海舟などのエピソードも欠かせません。時代の表舞台に立たなかったたくさんの支援者の存在もあります。また、目に見えない裏でのさまざまな人たちの画策もあるかもしれません。坂本龍馬が「大政奉還しましょう」と言って、「はいわかりました」となったわけではないのです。これを5分で話すのは無理があります。
3)ジャガイモの皮の剥き方のような作業
ジャガイモの皮の剥き方でさえも、言葉だけで説明するのは難しいものです。ジャガイモを左手でどのように持って、包丁をどのように持って、力をどこに入れて、、、それだけでも言語化するのは大変です。スポーツや料理、楽器の演奏などは言語化しにくいと言えます。
4)気持ちを言葉にする
親に感謝をしていますか?しているなら感謝を示しましょう!
こんなに気持ちって簡単なものではありません。感謝はしているけれど、理不尽だなと思うこともあるし、面と向かって話すのは恥ずかしいし、そもそも、過去に何度か感謝を伝えた時に・・・・
これらが複雑に絡み合って、それも言葉にしにくいニュアンスとなっているのが気持ちです。多くの場合には不安や葛藤が入り混じっているのです。
5)抽象的な概念
「死について」「愛について」などはそもそも「死」や「愛」が明確に説明されていません。「死」という概念が持つ意味を誰もが納得する形で説明してください。という問いだけでも答えるのは容易ではありません。「あなたのアイデンティティは?」のような質問も簡単に答えられるものではありません。
6)マイノリティ
難病の人、被災者、ひきこもりのような特殊な状況にある人やその家族。非常に頭が良い人や悪い人などは理解されにくい傾向にあります。一般にマイノリティと呼ばれる少数派の人たちは簡単にわかってもらえないという難しさ、生きにくさを感じています。
7)その他
味覚嗅覚に関するものや特殊な理論、幻覚・幻聴など特殊な状況を説明するのは容易ではありません。
3.言葉にできないことを聞く
5分で言語化できない出来事や症状を理解するためには特殊な技術が必要です。それが傾聴です。傾聴はただ長く聞くだけでなく、相手が伝えようとしているメッセージの裏にある背景、世界観を理解し、感情を汲み取り、あたかも同じ経験をしているかのように聞くことでもあります。
悩みの相談をする人たちは理解されなくて困っています。まず解決するしない以前に「良き理解者になる」ことがその人たちの救いになるのです。
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