傾聴の練習にはコツがあります。ただ、やみくもに傾聴すれば上達するわけではなく、いくつかのポイントを押さえて練習する必要があります。
目 次
1.自己流の傾聴にならないように
2.初心者用の練習メニュー
3.パート練習用の練習メニュー
4.勉強→練習→実践
5.練習相手がいない場合
6.インターネットを使った練習
1.自己流の傾聴にならないように
傾聴を学習している人の多くは実際に会話をしてみると傾聴ができていません。ほとんどの場合、自己流になってしまい、傾聴になっていません。
傾聴において最も重要なのは、お互いが繋がっている感覚を途切れさせずに共有することです。その一体感ができていない状態で、仮に適切なあいづちや上手な質問をしてもあまり意味がありません。
基本に忠実に一つ一つが無意識にできるレベルになるまで繰り返すことが傾聴を練習するときのコツです。
2.初心者用の練習メニュー
傾聴には幾つかの重要なポイントがあります。初心者のうちはそれらをパート練習することをお勧めします。繰り返し繰り返し練習して、自動的にできる(無意識的有能性といいます)まで練習してください。
1)一気にレベルが上がる「あり方」練習
自分自身が傾聴をしている姿を3分間で良いので、動画で撮影してください。そして、その動画を3回は見てください。そのあり方で本当に大丈夫でしょうか?
撮影のポイント
話し手と聞き手(自分)が両方映るようにしてください。上半身はすべて映るようにした方が確認しやすいと思います。
1)録画開始
2)タイマー3分スタート
3)傾聴開始
4)タイマーで傾聴終了
5)1分ほど雑談
6)録画を止める
1回目のチェック
動画を1回目に見る時には傾聴している自分自身の「雰囲気」「存在感」をチェックしてください。重要なチェックポイントは「この人に話を聞いて欲しいかどうか?」です。傾聴やカウンセリングを学ぶと「カウンセラーの服装」などが定義されていることがありますが、「理想的なあり方」は相手によります。老人ホームでは「着物」が役に立つこともありますし、失業者の傾聴に「スーツ」がふさわしいかどうかは考えた方が良いかもしれません。また、声や話すリズムは良さそうでしょうか?高すぎたり、聞こえにくかったり、アニメのような声だったりしませんか?
2回目のチェック
傾聴の3分と雑談の1分の違いをチェックしてください。一般的に「傾聴してください」と言われている間は雰囲気が硬く、不自然な動きが多いものです。そして、本番が終わり、雑談をしている時にはリラックスして、話せます。傾聴はリラックスして行うものです。傾聴の3分と雑談の1分の差がなくなるように心がけてください。
3回目のチェック
動画を3回目に見る時には自分自身の状態を2つに分類します。
「相手のための動きをしている時間帯」と「自分のための動きをしている時間帯」です。
初心者ほど「自分のため」が多いですが、それは傾聴の時にノイズになります。
× メモを取っている時に話し手から意識が外れてしまっている
× 次の質問を考えている時に自分の世界に一瞬入ってしまっている
× 時計を確認した瞬間、自分のための時間をとった
× 自己開示(自分の話をする)のが長すぎて、相手のためになっていない
× 自分が聞きたいから質問していて、相手が話したいことではなかった
◯ 相手をよく見て、リズムを合わせてうなづいている
◯ 相手が話したい話で傾聴の流れが進んでいる
特に初心者にありがちなのが「照れ笑い」です。「私、慣れていないんですみません」という空気作りは話し手のためになりません。「慣れていない」とアピールする余力を傾聴の成功に向けてください。セリフや仕草、ひとつひとつ細かく、「相手のため」「自分のため」で仕分けをしてください。初心者がいかに「自分のため」の時間が多いかがわかります。
この「あり方」練習を何度か繰り返すと「遠目に見ればプロっぽいな」という雰囲気が身につきます。細かいセリフや仕草などの詳細にはミスが目立ったとしてもまずはこの「雰囲気」を身につけられるようにしてください。
2)リズム合わせ練習
傾聴において重要なのはリズム感です。話し手の話が終わっていないのにあいづちをかぶせてしまったり、メモに夢中で反応がなかったりすれば話し手は話しにくくなってしまいます。お餅つきをしている人が息の合ったコンビネーションでお餅をつくようにリズムが合っていることは非常に重要です。この練習は3人で行うことをお勧めします。2人が傾聴している姿を3人目が観察することでじっくりと「リズム」をチェックすることができます。1セット5分程度がお勧めです。
1回目 早すぎるリズム
あえて早すぎるリズムで傾聴をしてみてください。あおるようにあいづちを打ち、小刻みにウンウンうなづいて、先をせかすように傾聴します。「うんうんうんうん。それで?それで?」という感じです。デメリットがたくさんある傾聴方法ですが、メリットも隠れています。体験しながら、リズムが早い時にどんな影響があるかを調べます。
2回目 遅すぎるリズム
あえて遅すぎるリズムで傾聴をしてみてください。1秒くらい間を空けてからうなづきます。これもデメリットがたくさんある傾聴方法ですが、メリットも隠れています。傾聴が上手なおばあちゃんはなぜ、ゆっくりなのか?そんなことを考えながら、遅すぎることのメリット、デメリットを探してみてください。
3回目 適切なリズム
自分が適切だと思うリズムで傾聴を行います。3人目の人は話し手と聞き手が流れるようにつながってダンスを踊っているようになっているか?ちぐはぐになっているかをチェックして、傾聴が終わってから教えてあげてください。
3)断続的傾聴練習
傾聴がうまくいっているかどうかは話し手に聞くと確認ができます。断続的に軌道修正しながら傾聴を行うと聞き手の想定と話し手の感覚のズレが確認できます。
普通の傾聴 10分
テーマを何か決めて、10分間傾聴をします。
ふりかえり 5分
傾聴をした内容が話し手が話したいことだったか?流れは良かったか?不快に感じたことはなかったか?本当はここを聞いて欲しかったということはないか?ああ、伝わったと思った瞬間はなかったか?などを確認します。
普通の傾聴 10分
ふりかえりの反省を踏まえて、傾聴を続けます。
※時間が許す限り、何度か「傾聴」→「ふりかえり」を繰り返します。
慣れないうちは良かれと思って、関係のない話を掘り下げてしまいがちです。「その話、したい話じゃないんだ」と教えてもらうだけでも自己流から脱することができます。
3.パート練習用の練習メニュー
傾聴には欠かせないポイントがいくつかあります。それらをパート練習で徹底的に身につけるメニューです。
1)感情に反応する練習
話し手が聞いて欲しいポイント、感情を込めた言葉などを聞き分けることは傾聴をする上で欠かせないスキルです。この練習では聞き手は「へ〜」「お〜」のどちからのあいづちしか打てない縛りを設けます。そして、傾聴の間、話し手の感情に集中して、言葉に感情をのせたと思った瞬間に「へ〜」と声を発します。10分程度続けたら、振り返りをします。
2)比率練習
傾聴の際に聞き手が話をしていて良い時間は1割です。それ以上、ペラペラと質問をしたり、伝え返しをしているのは傾聴ではなく、対話です。慣れない聞き手、カウンセラーほど気負ってしまって、たくさん話をします。傾聴の起源は「教会での懺悔」といわれています。神様が「へ〜それじゃあさ、◯◯になったりとか、、◯◯だったりするのかな?だってさ、、、」とベラベラ話をしませんね。教会は大袈裟にしても傾聴上手なおおらかなおばあちゃんは「へぇ〜そうかい」とたまにうなづくだけで傾聴をしています。3人組で聞き手が話す比率をチェックして、1割以下を目指してみてください。
3)その他練習
他にもプロ向けにはたくさんのパート練習があります。特に「メモ」「感情の引き出し」「陰陽の仕分け」など傾聴には欠かせないスキルを磨くものもありますが、基本は重要ポイントを小さく絞り、徹底的に練習することです。
4.勉強→練習→実践
テキストを開いて勉強することはとても大事です。しかし、傾聴は知識を覚えていても役に立ちません。科目に例えたら「体育」や「音楽」に近いものがあります。
勉強×100=練習×1
実際に60分なりの時間をとって、相手の心の状態を観察しながら盛り上がったり、行き詰まったりすることで学びが深まります。特に試験などをすると練習していない人はすぐにわかります。例えば、ピアノの先生から見たら、練習してきた子としてこなかった子が明らかなのと同じです。
練習×100=実践×1
練習はテキストを読んでいる勉強よりは効果的ですが、実践にはかないません。現場を持って、学んでいる人は常に相手を想定しているので、習得するスピードが違います。「専門用語が通じない」「あわせてくれない」「反発される」「話が止まらない」そんな練習では体験できないリアルが実践にはあります。
傾聴の練習と実践の違い
傾聴の練習では話し手の役(クライアント役)の人が相談をします。練習のために無理やり話題を探して話をしますので、話が続きません。一般に練習の時には間があいたり、傾聴のための時間が余ってしまいます。しかし、実践では初対面の人を相手にすることや本当に聞いて欲しい人が来るので、今度は逆に時間オーバーしてしまう方が多くなります。
5.練習相手がいない場合
傾聴の練習をする相手がなかなかつかまらないことがあります。
そんな時にはテレビやYouTubeなどで、徹子の部屋のような対談の動画を見つけてみるようにしてみてください。そして、どのような仕草をしたら相手がどのような仕草をするか?とか、話をしている2人がどれぐらい同調しているか?などを観察してみると傾聴学ぶ上で重要なヒントを見つけることができます。
実際の傾聴しているときには余裕がなくて観察ができないようなポイントを動画でじっくりと見極めるのは練習になります。
6.インターネットを使った練習
傾聴の通信講座ではズームと言うアプリを使って、練習会をすることがあります。
特に資格試験の直前や受講生が多い時期などには練習会が開かれることも増えてきます。ぜひこのような機会も利用し傾聴のスキルを上げていただきたいなと思っています。
特に友達と傾聴の練習をしていると馴れ合いになり、ただいつもの話をしているだけのようになってしまいます。だからこそ、このようにインターネットを使って初対面の人と傾聴の練習をすることは非常に重要です。
<大切な人のために生かす傾聴>
我が子のために傾聴を学ぶ人が増えています。なぜならば、自らの手で苦しんでいる我が子を助けたいと思うのが親心だからのように感じます。子どもの視点から考えると傾聴して欲しいのは他人のカウンセラーさんではなくて、自分の人生をみてきてくれた親なのです。
また、職場でもそうです。信頼している上司に話を聞いて欲しい。理解して欲しい。と願う人がたくさんいます。外部のカウンセラーさんは社内の大変さがわかっていないですから、傾聴ができるなら上司や同僚に話を聞いて理解してもらえたら最高です。