傾聴のテクニックの1つに「おうむ返し」というものがあります。
バックトラッキング、伝え返しなどということもあります。

大切な人の気持ちを暖かく受け止めたいというときにこの「おうむ返し」が上手にできるととても役に立ちます。話し手の気持ちを尊重して、うけとめるためのやり方をご紹介します。

目 次
1.基本的なやり方
2.話し手が心地よい返し方
3.注意するべきポイント
4.最悪なおうむ返し
5.少ないほうが効果が高い
6.会話を構成する5つのプロセス
7.大事なのはリアルな相手

1.基本的なやり方

傾聴するときに相手の発した言葉を引用して伝え返すことを「おうむ返し」と呼びます。相手の言葉を使うことによって、「今の話、受け止めましたよ」と言うニュアンスを伝えることができたり、ラポールを強化することができます。無視していたり、上の空ではありませんよという意味でも使います。

聞いているかどうか?
傾聴やカウンセリングに慣れている人は「聞いていますか?」と聞かれるような態度は絶対にとりません。真剣な眼差し、優しく包み込む笑顔、興味津々な目をしながら聞いている人が「おうむ返し」や「あいづち」をしないからといって、「聞いていない」とはならないはずです。「おうむ返し」の頻度を下げるようにアドバイスすると「聞いていない」と思われませんか?という質問がよくありますが、それは「おうむ返し」の問題ではなく、あり方に問題があります。


2.話し手が心地よい返し方

おうむ返しは適切なタイミングで使えると話し手のテンションが上がったり、続きの話が流れるように出てくるようになります。傾聴を学ぼうとしている人にはおそらく大切な人がいるはずです。その人の気持ちが流れ出してくるような聞き方のためにどんなやり方がよいか考えてみたいと思います。

おうむ返しが効果があるのはすべての単語に対してではありません。

「今日さぁ〜新宿でさぁ〜びっくりしたことがあってね」

と話しかけられたときに

「今日さぁ〜新宿でさぁ〜」

と伝え返しをしたらバカにしているのかと思われてしまいます。

しかし、傾聴の学び方が悪いとおうむ返しの意味を勘違いして、実際にバカにしているかのようにおうむ返しをする人もいます。そうなると話し手も聞き手の反応が気になって上手に話せなくなります。

 


3.注意するべきポイント

では、会話のどんな言葉に反応したらよいのでしょうか。
それは感情が込められた言葉です。

傾聴しながら相手の様子をよく観察しているとあるフレーズに感情を込めることがあります。

目を大きく見開いて、「すごいでしょう」と感情を込めたり、眉間にしわを寄せながら悲しそうに言葉を発することもあります。

その言葉は頭でロジカルに生み出された言葉ではなく、感情を言語化し、表情やしぐさにまで影響及ぼしながら発せられた言葉です。もし、その言葉をキャッチしておうむ返しすることができれば、その投げ返された言葉を聞いた話し手はその言葉をトリガーに感情を再び呼び起こすことでしょう。

なぜならば、感情つながった言葉を返しているからです。

おうむ返しは「感情」に対してつかう

これはとても重要なポイントです。まずは情報と感情を聞き分けられるように練習をしましょう。

感情をキャッチする
感情から出てきた表現をキャッチすることが傾聴では非常に重要です。話のどの部分に感情が込められていて、どの部分はただの情報なのか?どんな感情が込められているのかを読み取る練習は傾聴全般に役立ちますし、おうむ返しのタイミングを知る意味でも重要です。

 


4.最悪なおうむ返し

傾聴においては、聞き手は新しい単語を場に持ち込まないのが基本です。スクールや本、サイトによってはおうむ返しをし続けると単調になるので違う返し方がをする方が良いと教えているところもあるようですが、それは最悪です。

おうむ返しが多いのが問題なのは確かなので、おうむ返しをしないことが大事ですが、おうむ返しをしないというのは「違う返し方」ではなく、「返さない」が正解です。

言語化の罠
人が単語に込める意味やニュアンスは同じではありません。「仕事でミスした」という言葉を「仕事で失敗した」と置き換えたとします。ミスと失敗は同じニュアンスでしょうか?人によってはミスというのは「不可抗力というニュアンスもあるキャッチできなかった」という意味であり、失敗というのは「さらに過失の度合いが強い印象」になる人もいます。

プロは「仕事でミスした」という話し手に対して、「失敗したんですね」と新しい単語は持ち込みません。「ミス」を正確に伝える言葉は「ミス」以外にないからです。「ミス」という単語を使っておうむ返しをするか、うなづきなどをするだけにして、おうむ返しをしないかの選択になります。

私は重度のうつ病だった時期があるので、明確に違いが分かりますが、言葉を変えてくるカウンセラーは人の話を聞いていないように聞こえます。「ミスって言ってんじゃん!」と思いながら、「失敗したんですね」という言葉を伝え返すカウンセラーを見ていました。

 


5.少ないほうが効果が高い

おうむ返しの原理がわかった上で、もう一度、おうむ返しをするタイミングを考えてみると、それほど頻度が多くないことがわかります。

むしろ、一回の傾聴で1度か2度の「ここぞ」という時に使う方が有効であるといえます。

今日の傾聴で最も理解して欲しかった感情におうむ返しをするとうまくいきます。その時に余計なおうむ返しをたくさんしていると肝心なおうむ返しが紛れてしまって響きません。

 


6.会話を構成する5つのプロセス

会話を分解すると大きく5つのプロセスに分かれます。

  1. 聞いている時間
  2. 話している時間
  3. 想起している時間
  4. 構成している時間

もしこれを「話す」「聴く」だと思っていると大変なことになります。

なぜなら、「想起」していたり「構成」している時間を最小限にしたくなって焦ったり、「間」が空いていることで「話す」でも「聴く」でもない時間ができてしまうのを嫌がるようになるからです。

3、4、5の要素を会話のプロセスとして認識することで、傾聴がぐっと落ち着きます。そして、おうむ返しが必要がない時には「間」をうまく使ってください。下手なカウンセラーほど、手数が多いものです。

話し手が上記の1、2、3、4、5のどの状態になるのかを確実に見極められるようになると「あいづち」や「おうむ返し」のタイミングを逃さないようになります。

 


7.大事なのはリアルな相手

講座やマニュアルで学んだ知識をそのまま現場に当てはめるのは傾聴やカウンセリングにかかわらずナンセンスなやり方といえます。正解は人によって違いますし、話題によって違いますし、相手のコンディションによって違います。

もし、1つのパターンが普遍的に通用するならばカウンセリングは機械に任せられます。臨機応変に相手の様子を見て対応変えるからこそ人間が傾聴する意味があります。

決めつけずに現場に合わせていろいろなおうむ返しを試してみて下さい。

 


<最高の傾聴を大切な人に>

今回、「おうむ返し」をご紹介しましたが、おうむ返しのイントネーション、タイミング、声の高さなどが違うだけでも効果は違ってきます。傾聴というのは「あなたのことを大事にしていますよ」というメッセージを伝える行為でもあります。もし、本で少しだけ読んだ方法を安易に使ったら、、、「何か変な技術で対応された」と相手は感じるでしょう。それならばテクニックを使わずに誠実に愚直に関わったほうがマシです。

大切な人に最高の「あなたのことを大事にしていますよ」を伝えたい人のために一般論ではなく、現場で使える傾聴のノウハウをまとめました。