話を聴くのが「傾聴」とはいってもただ待っていても話を聴かせてもらえないことは良くあります。「傾聴」が始まり、相手の人が流れるように話をし始めてくれれば、あとは受けているだけでもある程度傾聴になります。では、傾聴をする時にどんな言葉がけをしたら良いのでしょうか?

目 次
1.傾聴のはじめかた
2.有効な質問
3.傾聴に便利なあいづち


1.傾聴のはじめかた

「さあ、心ゆくまで懺悔なさい」

傾聴の由来は教会の懺悔にあると言われています。神様に向かって、心いくまで自分のやってきたことや思いを伝え、懺悔する。そんなイメージで傾聴を理解した場合、大事なのは対面してからの質問ではなく、「教会に行ってこれを告白しよう」と準備するプロセスであると言えます。

教会に行って懺悔をしようとする人は何を求めて教会に行くのでしょうか?
傾聴をしてもらおうとする人は何を求めて傾聴をしてもらいに来るのでしょうか?

1)頭の中を整理したい

混乱してしまっている人が傾聴をしてもらいに来るかもしれません。もし、傾聴をいう概念を知らずに混乱している人がいたらどんな言葉がけをしたら「ああ、そんなことができるなら是非やってほしい」と思うでしょうか?「頭の中が整理されて、、、次にするべきことがはっきりわかるよ」とか「頭の中が整理されて、、、スッキリするよ」と声をかけたらどうでしょうか?そして、その流れで、それなら傾聴をしてもらいたい。とその人が思ったら、傾聴の中身はどんな風になると思いますか?

その人は傾聴を「頭の整理」だと思っています。そして「スッキリ」したいと思っています。そのために「頭の中にあることを一気に吐き出してみましょう」と言ったらよろこんで隅から隅まで吐き出そうとします。

2)誰かに気持ちを理解してほしい

整理がしたい人ばかりではありません。受け止めてもらえない気持ちを抱えている人もいます。そういう人には「傾聴をすると気持ちをわかってもらえるからほっとするよ」と伝えるのが良さそうです。その人にとっての傾聴は頭の中の整理ではなく、気持ちを理解してもらうことです。おそらく、傾聴が始まったら自分の気持ちを一生懸命に伝えようとするでしょう。そして「そんな気持ちだったんですね。よくわかりましたよ!」という結末になるとホッとするかもしれません。

3)誰かに一生懸命に関わってほしい

周囲の人が忙しかったり、自分とペースが合わないと寂しい気持ちになることがあります。ただただ一緒にいて、自分に対して一生懸命になってほしいだけの時もあります。そんな時には「真剣に向き合ってもらえるので自分を大事にされたような感覚になるよ」と伝えたら傾聴してもらいたい気持ちになるかもしれません。そして、その人が求めているのは頭の中の整理や気持ちを受け止めるというよりは一生懸命に関わってほしいのですから、あまりたくさんの言葉を話さないかもしれません。それでも真剣な眼差しでこちらをみて、関わってもらうことができたら、満足します。

「傾聴」というのは抽象的な概念です。

その人が何をして欲しいのか?傾聴という言葉の定義にとらわれずに相手が求めていることを察するだけで傾聴で使う言葉選びも変わってきます。傾聴に至るまでの関わり方、言葉遣いで傾聴に対するイメージやモチベーションが大きく変わってしまいます。

間違っても「傾聴はただ聞くだけで、効果がないかもしれないけれど」のような印象を持たれないように注意してください。そうなったら、どんな魔法の質問をしてもなかなか扉が開きません。

 


2.有効な質問

実際に傾聴をする時に有効な質問とはどんなものでしょうか?質問をしないで次の話題に促せればそれに越したことはない。ということは別にして、良い質問について吟味してみたいと思います。

1)有効な基本の質問

まず基本的に制約が少ないオープンクエスチョンから使っていきます。その質問をすることで答えの範囲がどれほど狭められてしまうかでオープンクエスチョンにも序列があります。

「おお!」(相手の目を見る)

これは質問の形をしていませんが、非常に有効なオープンクエスチョンです。「おお!」しか言わずに次の話題に促しているので、話し手はこの続きにどんな話をするか基本的には制約がありません。あいづちを兼ねて、「おお!」+「それでそれで?」という質問の仕方がスマートと言えます。

「今一番話したいことは何ですか?」

これも制約が少ない質問と言えます。解決に向かうとか、理解が進むとかそんな方向性はとりあえず置いておいて、話したいことから話してもらうと話し手がやりやすので流れが作りやすくなります。

 

「何があなたをそうさせたのですか?」

あるエピソードの動機を聴く時に便利な言葉です。「なぜ?」と聞いてしまうと理屈を考え、論理的になってしまうところを「何が」と聞くことで思い当たることを想起してもらいやすくなります。

「いつからですか?」

時間の範囲を限定することで、時間軸上の悩みの範囲を明確に区切ることができます。3年前からです。と言われたら、「4年前は?」と質問することができます。悩みの圏外では何が起きていたかを知るために役に立ちます。

「解決したっていうことは何が起きたらわかりますか?」

特に心の問題は「あ、今解決した!」とわかるような解決の仕方をするわけではありません。それではどんな体験ができたら、「ああ、解決したんだな!」と思うかを聞くことで、解決後のイメージを想起してもらうことができます。

「一番、◯◯だと感じたのはどんな場面ですか?」

相手が訴えたい、理解して欲しい感情を表す言葉を把握できたら、◯◯にその言葉を入れて質問します。

  • 「一番、憂鬱だと感じたのはどんな場面ですか?」
  • 「一番、スッキリしたのはどんな場面ですか?」

話し手はこちらが求めているほど明確に一番を答えてはくれません。おそらく、ある程度曖昧な答えが返ってきます。そうしたら答えを受け止めて、「△△の場面なんですね。そうですよね!それで、、一番、◯◯なのはどんな場面ですか?」とかぶせて質問します。前半の受け止める言葉がしっかり伝わっていれば何度質問をかぶせても違和感なく質問できます。この質問を繰り返していくと具体的な一つの場面にたどり着きます。抽象的は「不安」という話より、具体的な「不安を感じた場面」の方が明確で傾聴しやすくなります。

2)質問の本質

傾聴が上手な人ほど質問をしません。質問の本質は話の筋を切り替えて、聞き手中心に話してくださいということに他ならないからです。質問をした時点で話し手は受け身になり、質問に対して一問一答で答えますよという態度になります。では、質問をせずに質問とするにはどうしたらよいでしょうか?

想起させる

頭の中に何かが浮かんでしまえば、質問をする必要がありません。話し手の話がひと段落して、途切れそうなタイミングでじっくりと聞いた話を受け止めながら「なるほど〜・・・今、お話を伺っていて、私はあることを思い出しましたよ。以前にお会いした人がね・・」と短いエピソードやたとえ話(※一般的にはこの部分で現代催眠などの手法を使いますがここでは省略)を語って聞かせます。その間、聞き手に回っている相手が何を想起しているかを観察しながらエピソードを語ります。うなづいたり、上を向いて何かを思い浮かべたりしている様子が見受けられれば、その思いついたことから話を展開してもらうことができます。想起させるということは質問をせずに、頭の中次のネタを込めることを意味します。これができるようになると直球である質問を使う頻度が著しく減ります。

本質に迫る質問

特に心に関する話を聴く時には心の深い部分に触れるような質問が重要です。

  • その時どんな気持ちになりましたか?
  • その時体の感覚はどんな風になったか覚えていますか?
  • その時の場面を詳しく教えてください。
  • その時の場面を何かに例えることができますか?

心理状態は論理ではなく、身体感覚やイメージの中に関連付けられていることが多いので上記のように質問することで理屈ではない思いを聞き出しやすくなります。

 


3.傾聴に便利なあいづち

質問の工夫をすることも大事ですが、傾聴の時に相手が話したい流れを止めずに続けてもらうことの方が重要です。そのために工夫すべきは質問よりもあいづちです。

1)あいづちのタイミング

傾聴の最中、最も気にしていなければいけないのは話し手の話している内容ではなく、感情の動きです。「ああ、ここは前置きだな」「おっ、これから重要なことを話そうとしているな」「何か面白いエピソードを閃いたみたいだな」「きっとこれからオチがくるぞ!」そんな感情の動きに合わせるように話を聞いているとあいづちのタイミングがわかります。

あいづちは話し手が感情を込めたセリフ(ドヤ顔になるような瞬間など)を言った瞬間にするのがベストです。あいづちのセリフは短い方が効果的です。「なるほどそうなんですね!」では理屈っぽくて、本当に驚いた感じがしません。それよりも「おお!!」とか「へぇ!!」のように短く、声が出てしまったようなあいづちがオススメです。重要なのはセリフではなく、タイミングです。

2)セリフとオノマトペ

話し手が「」カギカッコがついたセリフを使ったり、オノマトペ(擬態語、擬声語)を使ったら、それを引用するようにしてください。間違っても言い換えて別のものにしてしまうことのないように注意して、その言葉をできるだけ引用します。セリフやオノマトペは心の深い部分とつながっている可能性が高いので、「モヤモヤ」と言われたら「モヤモヤ」というオノマトペを使って、あいづちをうちます。「モヤモヤするんですね!」セリフの場合でも『「やった!」と叫んでしまいますよね!』セリフを引用して、伝え返します。

3)「なんでなんだろう」「どういうことなんだろう」

自問自答するように小声で「そっか!何でなんだろう??」とつぶやいて会話を止めると話し手はなんでなんだろうの問いをぐるぐる考えてしまいます。それ以降の間は「何でなんだろう」を一緒に考える時間になります。あいづちに短い質問のような質問じゃないような質問を織り交ぜ、指向性を与えることで答えが出やすくなります。

4)間

間を開けることも重要です。質問攻めにするよりもじっくり考える時間ですと言わんばかりに間を開けるだけで間が空くことを嫌った相手が言葉を埋めてくれます。傾聴に慣れている人は平気で5分10分を間を空けて待ちます。

5)不完全な文章を伝える

「その時にお父さんが現れて、、、」と不完全な文章を伝えると相手はその続きを考えてくれます。「、、現れて、怒鳴ったんです!!」「おお!(埋めてくれましたね!)」

質問を途切れ途切れの長い文章で伝え、「・・・ですか?」となかなか言わないことで、質問を完結する前に相手の中に答えを生み出すことができます。

「私が、、、もし、、、あなたにできる、、、ことが、、、何かあったとして、、、それを、、、私が、、、あなたから、、、これをしてほしい、、、と聞くことが、、、できたら、、、何かがかわる、、、として、、、そんな、、、お願いが、、、、あなたの中に、、、あると、、、したら、、、、(あ、いま閃いたな)、、、それは何ですか?」

 

傾聴において、「言葉」はあまり重要な要素ではありません。相手が描いている世界観、気持ちにしっかりとついて行って、一体感を感じ続けることが大事です。そうしていれば、じわじわと相手の言葉を聞き出すことができます。「質問」は無理やりこじ開けるようなところがあるので、最小限にして、質問をしないで済む工夫をしたいですね。

 


<幸せの実感が伝わる傾聴>

言葉選びは傾聴においてとても大事です。適切な言葉は話し手の心に刺さり、幸せの実感、感情が共有できた実感を深く味わうことができます。大切な人の気持ちを上手に汲み取って「ああ、わかってもらえた!よかった!!!」となるような傾聴を心がけたいですね。