より良い傾聴をするために大事な心構えをまとめました。多くの心理カウンセラーが陥りがちなポイントでもありますので、参考にしてください。

目 次
1.「ダメな人」ではない
2.投影に注意
3.理論に振り回されない

1.「ダメな人」ではない

傾聴をする時、話し手のことをどんな人だと思っているでしょうか?特に病院や福祉施設などで傾聴をする時に弱っている状態、困っている状態の人を「ダメな人」と位置付けている人が少なからずいます。

1)ダメだから話を聴きます

相手をダメだと心の中で思っていると「(あなたはダメな人だから)話を聴きます」という雰囲気になってしまいます。言葉では「大丈夫ですか?」と優しい言葉をかけていても「(あなたはダメな人だから心配です)大丈夫ですか?」と聞こえます。大前提として、話し手は十分に生きる力、問題解決能力などももっている。という前提で傾聴をするようにします。

2)「わからないかもしれないので・・・」

わかりやすい言葉で関わろうとしすぎると慇懃無礼な感じになっていまいます。

「(あなたはダメな人だから簡単な言葉で言いますが)今から、、今まであったお話を、、おうかがいしますね!話せないことがあったら、無理に話さなくても大丈夫ですよ!それから、どんな話をして良いか分からなくなったら、、私の方で、、誘導しますから、、、」

「あ、いや、そこまで調子悪くないんで!」

丁寧にすれば良いということではありません。相手をよく観察せずに過剰に優しくするのは失礼です。

3)同志、尊敬する人

もし、傾聴を同志に対して、尊敬する人に対してするとしたら、どんな話し方になるでしょうか?話の組み立て方やリアクションにそれほど気を使わなくても相手もリラックスして話をしてくれます。「ダメな人」という空気ではなく、人生の尊敬すべき先輩や同志と人生経験を分かち合うような傾聴を目指してください。傾聴をすればするほど、「あなたは尊敬すべき人だ」という見えないメッセージが伝わります。

 


2.投影に注意

自分自身の心理状態や生活環境、価値観が傾聴に影響を及ぼします。

薬剤師さんがうつ病の人の傾聴をすると「人間関係」「コミュニケーション」「トラウマ」「副作用」とたくさんのエピソードがある中でかなりの確率で「副作用」の話を広げてしまいます。仕事柄、自分自身の頭の中にその概念がたくさん詰まっているからです。

1)話し手の姿をそのまま見る難しさ

「仕事」「悩み」「優しさ」これらの言葉の意味を理解するのは難しくありません。では、「仕事」とは何をイメージして、「仕事」という言葉を理解したと思っているでしょうか?

(参考「仕事とは」アンケート)
・仕事とは自分を成長させるところ
私がそう思うようになったのは、やりたかったアパレル業界をバイトから入社して正社員、管理職まで昇格したからです。管理職になってからは面接やマネジメントも任されて仕事をしていました。バイトだからバイト分の仕事しかしない、正社員になりたいと口だけいうスタッフなど、いろんな人を見てきました。バイトだけども社員と同じように業務をこなすスタッフといい人にも巡り合いました。自分がこうしたいということをきちんと実行してくれる人もいれば、反発する人もいたりと、いろんけ経験が出来ました。いろんな人と出会ったことにより自分自身が成長できたので、仕事とは自分を成長させるところだと思います。プライベートでは巡りあうことが出来なかったなと思うことがあったからです。

・給与を貰って必要最低限の生活水準を維持する手段
完全な年功序列社会、高学歴至上主義、現場を知らない出向上司。そんな職場では当然労働環境もいいはずもなく人がどんどん辞めていった。現場社員は主にアルバイト上がりや高卒社員が多く、賃金も当然安い。現場が成果を上げてもその成果は全く反映されず、現場に来て休憩ばかりしている上司の手柄になる。なので現代社会では生活に必要な最低基準の賃金だけをもらい後はなし崩し的に仕事をするのが1番だと思う。考え方は間違いかもしれませんが、俗に言うブラック企業と言うのはそういう考え方生き方でないと精神が摩耗してしまう。そんな会社でも真面目に働くことによって辞めていく管理職社員を何人も見てきているためにそう思うようになりました。ブラック企業と言う悪性腫瘍が存在する限り私はそう思い続けます。

・ほとんどの人が苦しみながらしていること
職場である営業マンが自由になりたい、しんどいとつぶやいていたことがあり、また友達も辞めたいと何回も言っていたりと今まで仕事に対してマイナスな発言しか聞いたことがなかったから。自分自身も仕事に対してマイナスなことしか思えない。接客業をしていた時は理不尽に怒るお客だったり、お客のために無理な注文でも受けて休憩をなくしたり、遅くまで残業したりと自分を犠牲にしてお金をもらっていると常に感じている。世の中生きているごく一部の人は自分の好きなこと、やりたいことを仕事にしている場合もあるがほとんどの人は会社という組織にしばられ、やりたくないこともさせられて生活のためにと自分を犠牲にして苦しみながら生きていると感じる。

これらは一例ですが、これだけ考えている世界観が違うということです。「成長」と思っている人が話を聞いていたら、「そんな場面だったら成長できるだろうな」と想像するかもしれませんし、最後の人は「マイナス」「自分を犠牲にしているんだろうな」ととらえるかもしれません。

「仕事しているんです!」「成長できますね!」
「仕事しているんです!」「自分を犠牲にしているんですね!」

どちらも聞き手の投影です。話し手はどう思っているのかを慎重に聞く必要があります。

2)わかったつもり

あるお母さんに「うちの子は小学校5年生なんですよ!」と言ったら「かわいいですね〜!」と反応されました。「いや、あんた私の子供知らないでしょ?性別も聞いていないし、、、」こういった早合点がよくあります。わかったつもりで反応されるとその先の話ができません。

対象者が何万人もいるような話をしている時に共感するということは「あなたの話を聞いていない」ということに他なりません。

3)世界が狭いと傾聴できない

「ラーメンを食べたんですよ!」と言われた時、大抵の日本人ならラーメンにはかなり多くの種類があることを知っています。塩ラーメン、醤油ラーメン、豚骨ラーメン、担々麺、、、、札幌、喜多方、家系、二郎、博多、長浜、、、、、カップヌードル、スーパーカップ、、、、そのどれだろう?と限定せずに話を聞けます。必要によっては、「何ラーメンですか?」と詳しく聞くことができます。

しかし、自分自身の世界観が狭いと一種類しか思い浮かべないかもしれません。

「うつ病になったんです」「そうなんですね!大変でしたね!」

うつ病患者は何百万人という単位でいます。大変かどうか、何でこのタイミングでわかるのでしょうか?笑っているうつ病患者、自信があるうつ病患者も実在しています。

傾聴をするためには多様性の中に相手がいると思って話を聞く必要があります。仮に「うつ病」について詳しくなくても良いのです。「ラーメン」と同じようにより詳しい話を聞くようにしていけば良いのです。「ラーメン」と同じように「うつ病」にも「仕事」にも詳細の話、分類があるのです。

 


3.理論に振り回されない

最近は実体験が少なく、理論先行の人が増えています。しかし、傾聴相手は人間です。

1)テクニック用語は要注意

「どうしても、テレビを見ちゃうんです!」「つまり、テレビを見たいんですね!」これはカウンセリングテクニックの一つです。確かに話し手にインパクトと気づきを与える良い切り返しかもしれません。しかし、切り返しが鋭ければ鋭いほど「技」を使われた感が出てしまいます。

上手な言い回しを使いこなすためにはその言い回しに頼らなくても十分に上手な聞き手になる必要があります。そうしないとその言葉だけが鋭く、それ以外が鈍いので「技」と感じ取られてしまいます。

人は人の心を欲しています。技をかけるだけなら、AIで十分なのです。

2)理論通りに人は動かない

研究職の心理学の先生が「エビデンス」「再現性」ということをよく言います。しかし、100%成功する恋愛の方法、100%成功する悩みの解消方法があるでしょうか?100%成功する恋愛方法ができれば、それを攻略する恋愛方法が生まれてきます。再現性がある恋愛方法が存在したら、私たちが生きている意味が薄れてしまうと思いませんか?

それでも多くの人は本を読んだり、セミナーを受講して、そのままを当てはめようとします。

理論は「ヒント」であり「型」です。それを参考にしながら不定形な人間の心と向き合うのが傾聴の役割です。理論ではなく、目の前の相手をしっかり見ることを忘れないでください。

(悩みに寄り添うという思い込み)
ある臨床心理士さんがカウンセリングの試験を受験しました。クライアントさんの前に座り、暗い顔をして、「はあ〜」と深くため息をついて、「それで、どんな辛いことがあったんですか?」と切り出しました。クライアントさんは調子が上がってきたので未来の話をしたかったのに「辛い人」と決めつけられてしまい、戸惑いながら辛さを語ります。そして、その心理士さんは「どんな時が一番辛いですか?」「それは辛かったでしょう!わかりますよ!」と暗い顔でどんどん闇の深い方向に引きずり込んでいきます。カウンセリングの終盤、ついにそのクライアントさんは泣き出してしまいました。心理士さんは「いいんですよ!辛さを全部吐き出してください!」一見すると普通の人が引き出せない心の闇を引き出して感動的なカウンセリングになっていました。

これは試験なのでカウンセリング時間終了後に双方に感想を聞きました。

心理士さんは「最後まで十分にクライアントさんに寄り添うことができました」と満足げでした。

クライアントさんは「こんなに辛い思いをしたのは生涯で初めてです。人生最悪の経験をさせたのはあの心理士さんです。」と感想を述べました。

楽しい話をしに来たのに今まで存在していない闇の中に心理士に引きずり込まれたのです。聞き手の思い込みで話し手を苦しめてしまったり、症状を悪化させてしまうことがあります。

 


<傾聴をするからわかること>

今回、「心構え」のお話をさせていただきました。これは私たち心理職の人が行動規範としている考え方の一部です。人は言葉の背後にある相手の気持ちやあり方を察します。だからこそ、傾聴をするときには小手先のセリフではなく、あり方が問われます。

あり方というと難しく、修行をするようなイメージがありますが、それさえ出来てしまえば、セリフに関係なく人と仲良くなれます。皆さんの周りにも能力やトークに関係なく、人と繋がれている人がいるはずです。傾聴の背後にあるあり方とはそんなものです。

もし、これを読まれている人が「傾聴」を通して、自分自身を知り、成長させ、多くの人と豊かな時間を分かち合いたいと思うなら、本格的に傾聴を学ぶことをお勧めします。